100万台目がラインオフしたポルシェ911。いまも7割以上が現在も走行可能について考えてみる

2020年09月06日
画像提供:カレントライフ (撮影/江上透)
画像提供:カレントライフ (撮影/江上透)
去る2017年5月21日に、100万台目となるポルシェ911がラインオフしました。1963年に発表されて以来、何度かの危機はあったものの、モデルチェンジを繰り返しつつも、今日まで生産された911。半世紀以上にわたり、世界中の、そして多くの世代のポルシェフリークに愛されてきたからこそ実現した快挙といえそうです。



しかし、100万台生産されたクルマであっても、現存率が極めて低いモデルも少なくありません。ポルシェ911の場合、過去にラインオフした個体の7割が現在も走行可能な状態にあると、メーカー自らアナウンスしています。100万台の7割ですから、単純計算で70万台。これは驚異的な数字です。では、なぜこれほどポルシェ911が人々から愛される存在でいられるのか?いくつかの仮説を立ててみました。

高額車ゆえ、保管環境が良い


ポルシェ911といえば、車両本体価格が日本円で1,000万円を優に超える存在です。高額車ゆえ、特にファーストオーナーはガレージ保管やマンションの駐車場など「直射日光や悪天候にさらされることなく車両が保管できる環境が用意されている」可能性が極めて高いといえそうです。やむなく、都内の月極駐車場に「青空駐車」せざるを得ない環境にある場合も想定されますが、ボディカバー(それも上質な)を被せて愛車に対する配慮を欠かさないなど、相対的に一般的な市販車よりも恵まれた保管環境にあることは間違いないと思われます。

趣味用のクルマとして購入しているケースが多い


普段はセダンやSUVなどのクルマに乗り、休日や空いた時間などを利用してポルシェ911のステアリングを握る・・・。そんなセカンドカー的な使い方をされてきた場合も多いのではないかと推察されます。他にも複数のクルマを所有し、なおかつ保管状態の良いガレージに置いてあれば、所有年数の割に走行距離が少なかったり、きちんとメンテナンスが施されているなど、時間も資金的にもゆとりのあるオーナーのところに暮らす911は、自ずと「極乗車」としての年輪を重ねていくことになることが考えられます。

1人のオーナーが複数の個体を所有するコレクションアイテム的要素あり


まずは水冷の911でデビューを果たし、その魅力に取り付かれて、カレラ→ターボorGT3→空冷911という風に、少しずつ先祖返りを起こすという例は日本でも珍しくありません。ここでも金銭面と置き場所に余裕のある方は、増車という選択肢があるでしょう。ENGINE誌等で紹介されていた、レーシングドライバー・生沢徹氏の、ありとあらゆる年代の911をコレクションした様は驚愕としかいえないレベルです。生沢氏は別次元としても、1台、また1台と歴代911コレクションを増やしていくオーナーは、日本に限らず世界中に存在することはいうまでもありません。

型式や年代、限定モデルなど、熱狂的な911信者が存在している

前述のように、さまざまな年代の911をコレクションしてしまうユーザーがいる一方で、カレラRS2.7や、964RSやターボS、993GT2、水冷911時代のGT3RS、GT2RSなど、数え切れないほどの限定モデルやスペシャルモデルが存在します。これらを取りそろえるだけでも膨大な資金力と豊富なネットワーク、そして置き場所の確保も必要です。これらの限定モデルやスペシャルモデルは、今後、世界レベルでの経済不況が起こらない限りは相場が大暴落することは考えにくく、また、そのタイミングが手に入れる本当のラストチャンスかもしれません。それが「知る人ぞ知る」情報ではなく、このように広く知られた周知の事実であることも、争奪戦に拍車を掛けているのです。

長く付き合える趣味性と適度な実用性をバランス良く兼ねた存在である


フェラーリやランボルギーニなどの最新のスーパーカーは、もはや500psどころか、800ps近いモデルが普通に売られている時代、全幅が2メートル近くあり、運転席から見える視界も狭く、乗り降りも大変・・・。決して「子どもが独立してからゆっくりと楽しむ」存在ではなくなってしまった感があります。急成長著しいマクラーレンこそ、いまや911以上に「最新は最良」の称号を掲げるべき存在かもしれません。あまりにモデルチェンジのサイクルが早く「(少数派かもしれませんが)ようやく手に入れることができたオーナー」にとっては、一瞬で旧モデルとなってしまう残酷さも秘めているのです。


その点911は、予算に応じて魅力的なモデルが無数に存在していますし、並み居るスーパーカーほどにはスポーティなドライビングポジションを求めることもありません。この「趣味性と適度な実用性をバランス良く兼ねた存在」であることが、長く愛される秘訣のように思えてならないのです。

代わりになるクルマが他に存在しない


ポルシェ911というクルマは罪な存在で、この存在に魅せられてしまうと、代わりになるクルマが古今東西存在しないという事実です。これは、特にオーナーや元オーナーであれば、実感が湧くのではないでしょうか?最初期モデルの901(通称、ナロー)からはじまり、現行モデルにあたる991まで。「最新は最良であるけれど、最高ではない(かもしれない)」ほどに、オーナーの趣味趣向、フルオリジナルで乗るもよし、自分好みにモディファイするもよし。GT3-Rを手に入れて、サーキットを攻めてもいいし、フルオリジナルのナローを愛でてもいい。100万台の911がラインオフしたということは、100万通りの楽しみ方が存在するともいえるのです。

いつの時代も、911という軸はぶれないまま、お買い物からレーシングカーまで、用途に応じて無限のバリエーションが存在し、ポルシェのシンボル=911を手に入れるということは、同時に日常と非日常を行き来する、特別なクルマの所有すること。この代えがたい所有感を満たしてきたことが、全世界で70万台もの911が現役であることを証明しているように思えてならないのです。

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