可憐なる、ポルシェ928のライバルたち

2020年09月07日
かつてポルシェ928といえば、ポルシェ911の次の世代を担うニューモデルという噂が飛び交う、当時の日本に鳴り物入りでやってきたのです。1970年代後半の911といえば、最大のマーケットである北米市場のニーズに合致した仕様・・・それも過渡期であったがゆえに、性能的にもデザイン的にも不遇な時代だったのかもしれません。それを示すかのように、この年代の911は市場でも不人気で、現存している個体も少ないように感じられます。


そんなタイミングで登場した928。日本でも「ついに911の時代が終わるのか」という疑問に、当時の正規販売店だったミツワ自動車が否定したほどでした。

まずは、エントリーモデルである924を手に入れ、911を「すっ飛ばして」928にステップアップするオーナーも存在したに違いありません。「直列4気筒 3.0Lエンジン+FRの924」から「V型8気筒 5.0Lエンジン+FRの928」へステップアップ・・・。これがポルシェでなければ、至極真っ当な乗り替えだと思うのです。

いまでは考えられないことですが、「納車から自宅に帰宅するまでにクラッチがなくなった」とか「911を乗りこなすための練習用のクルマ(左ハンドル+MT)を購入した」とか「911を乗りこなす体力を維持するためのランニングを欠かさない」など、911には都市伝説めいた逸話がいくつもあったことを懐かしむ方もいることでしょう。どれが真実で、どれが都市伝説なのか?いずれ解き明かしてみたいものです。

少なくとも、価格帯やスペック上では、ポルシェのラインナップではアガリの1台とカウントされたであろうポルシェ928。孤高の存在であった911一族とは異なり、その時代ごとにライバルが存在したこともまた事実です。日本市場に限定したトピックとして、時代ごとのライバルたちを振り返ってみたいと思います。

ポルシェ928/928S/928 S2時代:1978年〜1986年頃


1970年代後半から80年代半ばに掛けて、日本市場における928のライバルといえばこの3モデルではないでしょうか。既に30年を優に超えるネオクラシックカーばかりですが、市場に出回ることもしばしば。程度の良い個体は文化財的価値を持ち始めています。現代のクルマ以上に、個々のメーカー、そしてモデルの個性が沸き立っていたように思えるのです。また、1つのモデルライフが長かったことも特徴的です。1970年代に誕生したクルマが1980年代後半まで販売されていたのもこの時代です。

メルセデス・ベンツSL(R107)

BMW 6シリーズ(E24)

ジャガーXJ-S

ポルシェ928 S4の時代:1987年〜1991年頃


あくまでも個人的主観ですが、928がもっとも輝いていた時代はこの年代に思えてなりません。日本がまさにバブルの最中だった時代です。メルセデス・ベンツSLが18年ぶりにフルモデルチェンジを果たし、R129型へと進化。13年間生産されつづけたBMW 6シリーズ(E24型)が終焉を迎えるタイミングで、BMW 8シリーズ(E31型)が華々しくデビューを飾ります。ジャガーXJ-SがXJSとしてマイナーチェンジを行い、ホンダ NSXもセンセーショナルな存在として注目されました。

メルセデス・ベンツSL(R107)

メルセデス・ベンツSL(R129)

BMW 6シリーズ(E24)

BMW 8シリーズ(E31)

ジャガーXJ-S/XJS

ホンダNSX(ATモデル)

ポルシェ928 GTSの時代:1992年〜1995年頃


1970年代に誕生した高級2ドアクーペが軒並みフルモデルチェンジ(あるいはマイナーチェンジ)を行い、次の世代に突入した1990年代前半。ポルシェ928も最終進化形のGTSとしてモデルチェンジを果たします。メルセデス・ベンツやAudi、アストンマーティンやマセラティ、ジャガーなど、各メーカーがクーペモデルを相次いで投入するのは数年後、1990年代中盤〜後半です。古き良き時代のクルマたちが、最後の一花を咲かせた時期だったのかもしれません。

メルセデス・ベンツSL(R129)

BMW 8シリーズ(E31)

ジャガーXJS

マセラティ シャマル

最大・最強のライバルは身内にいた?


ポルシェ928シリーズにとって、最大・最強のライバルは911ではないかという仮説を立ててみたいと思います。独特の乗り心地、走りの質感、他のクルマならマイナス要素になることも、いつの間にか美点として扱われてしまう魔力を秘めた911。この「911」という絶対的シンボルは、未来永劫変わることなくポルシェのラインアップに君臨することは間違いないと断言してよいのではないでしょうか。


928本来のGTカー的なAT仕様はもちろんのこと、あえて販売台数が見込めないであろうMTの設定を用意し、3ペダルを駆使してスポーツマインドをたぎらせる設定が日本仕様に存在していたことも、ミツワ自動車の良心だったのかもしれません。奇しくも、928のMT仕様は959スポーツ並みに希少価値を持つに至ってしまったのです・・・。

現代にポルシェ928が甦るとしたら・・・?


ポルシェはもちろん、メルセデス・ベンツ、BMW、Audi、アストンマーティン、フェラーリ、マセラティ、ジャガー、レクサス・・・等々。現在の高級2ドアクーペ市場はまさに群雄割拠状態。ポルシェがこのカテゴリーに参入するとなった場合、ほぼ最後発となります。独断と偏見で「現代にポルシェ928が甦った場合、どこに勝機(ヒット作となる)を見出すかまとめてみました。

・いうまでもなく、ポルシェというブランド力を最大限に活かす
・911とは完全に決別した路線を徹底的に追求する(高級でありながら、スポーティさも両立)
・並み居るライバルメーカーを圧倒するデザイン力
・馬力や最高速よりも、PHEVや自動運転などの先進技術を惜しみなく投入し、アピールする
・カブリオレモデルの設定(メタルトップではなく、幌で)
・ボンドカーなど、映画とのタイアップを模索
・2000万円以上の価格帯を狙い、高級路線を貫く

結論とすれば、「過去に928を所有したことがある(または現在も所有している)顧客層よりも、新たなユーザーを獲得する」ことが求められるように思います。潤沢な財力があり、頻繁に代替えすることも厭わない、かといって911やカイエンでは野暮ったい、エッジの効いた高級2ドアクーペを求めている層に響く仕立ての現代版928が誕生したとすれば・・・。ポルシェ社にとっても、新たな収益の柱になるかもしれない可能性を秘めているように思えるのです。

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