カイエンではなく、敢えてパナメーラ スポーツツーリスモを選ぶ意義とは?

2020年09月05日
パナメーラ スポーツツーリスモ・・・。多くのポルシェフリークにとっても、まだまだ馴染みの薄いモデルかもしれません。日本で予約が開始されたのは2017年4月のこと。この記事が配信される時点で2ヶ月弱しか経っていません。おそらく、街中で見掛けることも、現時点では皆無でしょう。

いまや、ポルシェ社の屋台骨を支えるまでに存在感が増したカイエン&マカン全盛の時代に、敢えてパナメーラ スポーツツーリスモを選ぶ意義について、今回は検証してみたいと思います。

いまや、ポルシェ社の屋台骨を支えているのはSUVという現実


プレスリリース等で発表されているのですでにご存知かもしれませんが、いまや、ポルシェの販売台数を支えているのは911ではありません。マカンを筆頭に、カイエンと合わせると70%近い比率となっています。かつて「RVのホンダ」と揶揄されてしまった時代がありましたが、いまや「SUVのポルシェ」といわれてもある意味では仕方のない状況ではあるのです。それは、以下の数字を見れば一目瞭然です。

●2016年の全世界新車販売台数:237,778台(前年比6%増)
・マカン:95,642台(前年比19%増)
・911:32,409台(前年比2%増)
・718ボクスター:12,848台(前年比9%増)

ちなみに、日本における2016年度(2016年3月〜2017年4月)のポルシェの新規登録台数は7,322台、2015年度は6,802台でした。参考までに、2006年度は3,647台、1996年度は1,900台、1986年度は831台です。あくまで単純計算ですが、30年間で10倍近い台数のポルシェが年間で新たに登録されるようになったのです。

幻のポルシェ989・・・4ドアのポルシェなんて・・・それは市場の拒否反応だったのか


いまでこそ、4ドアのポルシェが当たり前のように世界各地の路上を走るようになりましたが、長年スポーツカーメーカーを標榜してきたポルシェ社にとって、4枚ドアのポルシェなどは市場が受け容れてくれなかった時代が長く続いたように思います。

996型を想起させるフォルム、911を連想させつつも、4枚ドアがある特異なデザイン。膨大な開発費用・・・。ポルシェ959が未来からやってきたモデルだとすれば、1980年代後半に開発がスタートした「989」は、産み落とされるタイミングが早すぎたのかもしれません。こうして開発開始から数年を経過した段階で、989の開発中止が決定されます。

1990年代前半といえば、ポルシェにとって冬の時代。944,911,928の3モデルを展開し、市場で熱狂的に迎えられたボクスター プロトタイプが発表される数年前、カイエンなど、夢のまた夢という時代でした。早すぎたモデルが生産車(パナメーラ)として結実するのは、21世紀に入るまで待つことになるのです。

まず、SUVで目を慣れさせ、違和感なく市場パナメーラを投入、そしてステーションワゴンまでも追加するしたたかさ


ポルシェ初のSUVとなった「カイエン」の初代モデルが登場したのは2002年のこと。もう15年も前のことなのです。古くからのポルシェファンはあからさまに拒否反応を起こしたように思います。「スポーツカーメーカーたるポルシェがSUVなんぞ発売するとは何ごとだ!」と。

しかし、結果としてカイエンは大ヒット。911やボクスターを好む層とは明らかに異なるユーザーの獲得に成功します。それは日本でも同様です。「ポルシェの名を冠したSUV」という新たなジャンルは、都心部を中心とした富裕層の所有欲とステータス性を満たす、絶妙の存在だったのです。一説には、中国では911よりもカイエンの方がポルシェとして認知されているほど、ラインナップのなかでも揺るぎない地位を獲得し、1,000万円以下で購入できるエントリーモデルから、総額2,000万円を超えるターボモデルまで、幅広い富裕層の需要を満たす存在となっていきます。

日本に限っていえば、街中(主に都心部)にカイエンが溢れるようになった2009年に、ついに4ドアセダンとなるパナメーラを発表します。その頃には「旧来マニア層 < 新生オーナー層」の割合が逆転しているような状態。すっかり目が慣れた市場にとって、パナメーラにアレルギー反応を示すユーザーはもはや少数派といえます。結果として、カイエンからパナメーラへの代替が進み、その翌年(2010年)には、カイエンが2代目へとフルモデルチェンジを果たすのです。いつの時代も、ポルシェの販売戦略はしたたかとしかいうしかありません。

ポルシェの象徴ともいうべき911、新たなスポーツカーファンを獲得するボクスターおよびケイマン、SUVモデルのカイエンおよびマカン、そして4ドアセダンのパナメーラ。ここまでポルシェの名を冠したモデルがそろえば、スポーツツーリスモ(ステーションワゴン)が追加されても違和感を感じることはもはや皆無といっていいほど、市場も歓迎ムードになっているのです。まさに全方位隙なし、盤石の体制が整ったといえるでしょう。

敢えてパナメーラ スポーツツーリスモを選ぶ意義とは?

ボディサイズの比較
パナメーラ4:全長×全幅×全高:5049x1937x1423(mm)
パナメーラ4 スポーツツーリスモ:全長×全幅×全高:5049x1937x1428(mm)

パナメーラ4E ハイブリッド:全長×全幅×全高:5049x1937x1423(mm)
パナメーラ4E ハイブリッド スポーツツーリスモ:全長×全幅×全高:5049x1937x1428(mm)

パナメーラ4S:全長×全幅×全高:5049x1937x1423(mm)
パナメーラ4S スポーツツーリスモ:全長×全幅×全高:5049x1937x1428(mm)

パナメーラ ターボ ハイブリッド:全長×全幅×全高:5049x1937x1423(mm)
パナメーラ ターボ ハイブリッド スポーツツーリスモ:全長×全幅×全高:5049x1937x1480(mm)

車格が近いと思われる2台のボディサイズ
アウディ RS 6 Avant performance:全長×全幅×全高:4980x1935x1423(mm)

Mercedes-AMG E 43 4MATIC STATIONWAGON:全長×全幅×全高:4960x1850x1460(mm)

キャラクターが被るアウディ RS 6 Avantや、Mercedes-AMG E 43 4MATIC STATIONWAGONと比較しても、パナメーラ スポーツツーリスモが大柄なボディを纏っていることが分かります。

では、ポルシェでありながら、カイエン&マカンでもなく、パナメーラでもなく、敢えてスポーツツーリスモ(ステーションワゴン)を選ぶ理由はあるのでしょうか?

1.最新モデルであること
最新かつ派生モデルという稀少性という点において、他のポルシェのラインナップ(限定車を覗く)と比較した優位性はいまのところ圧倒的です

・パナメーラ4 スポーツツーリスモ:3.0L V型6気筒DOHCツインターボチャージャー付/最高出力330ps
・パナメーラ4E ハイブリッド スポーツツーリスモ:2.9L V型6気筒DOHCツインターボチャージャー付/エンジン:330ps/電気モーター:136ps/システムトータル:462ps
・パナメーラ4S スポーツツーリスモ:2.9L V型6気筒DOHCツインターボチャージャー付/最高出力440ps
・パナメーラ ターボ スポーツツーリスモ:4.0L V型8気筒DOHCツインターボチャージャー付/最高出力550ps

車格が近いと思われる2台の車両本体価格
・アウディ RS 6 Avant performance:4.0L V型8気筒DOHCインタークーラー付チャージャー付/最高出力605ps

・Mercedes-AMG E 43 4MATIC STATIONWAGON:3.0L V型6気筒DOHCツインターボチャージャー付/最高出力401ps

2.ポルシェ初のステーションワゴンであり、ニッチな市場を押さえた存在であること
バブル期にメルセデス・ベンツ(S124)を筆頭に、日本でもステーションワゴンブームが起こりました。SUVはどうも抵抗がある、あるいは駐車場の関係(主に全高)で止めることができない・・・等々、あらゆる理由や選択肢で、ポルシェが取りこぼしていたユーザーを繋ぎ止めることができるようになったのです

3.今後の売れ行きによって1代限りで終わるかもしれない可能性もありうる
メルセデス・ベンツ シューティングブレークがそうであるように、非常にニッチな市場であるがゆえに、ヒット作となる可能性を秘めつつも、まったく販売台数が伸びずに終わる可能性もありえるのです。そういう意味では、「乗れるときに乗っておきたいポルシェ」であることは間違いないように思います。

パナメーラ スポーツツーリスモは市場に受け容れられるか?


Yes or No でいえば、「Yes」でしょう。ポルシェの公式サイトには「パナメーラ スポーツツーリスモは、恐れることなく勇気を持って挑む人のために創られた1台なのです」という一文があります。販売台数が好調で、ポルシェ社に体力があるからこそ、このような派生モデルが誕生できるのです。

それぞれのモデルの価格差を算出してみました(2017年5月現在)。


・パナメーラ4:12,120,000 円
・パナメーラ4 スポーツツーリスモ:12,973,000 円
(価格差:853,000円)

・パナメーラ4E ハイブリッド:14,360,000 円
・パナメーラ4E ハイブリッド スポーツツーリスモ:15,213,000 円
(価格差:853,000円)

・パナメーラ4S:16,280,000 円
・パナメーラ4S スポーツツーリスモ:17,043,000 円
(価格差:763,000円)

・パナメーラ ターボ ハイブリッド:23,770,000 円
・パナメーラ ターボ ハイブリッド スポーツツーリスモ:24,533,000 円
(価格差:763,000円)

車格が近いと思われる2台の車両本体価格
・アウディ RS 6 Avant performance:18,050,000 円
・Mercedes-AMG E 43 4MATIC STATIONWAGON:11,860,000円

この価格差を高いと見るか否かは人それぞれだと思われますが、リセールバリューという点を考慮したとき、メルセデスAMGやアウディのように「ステーションワゴンだからセダンよりも高値がつく(はず)」かどうか?あくまでも個人的な意見として、パナメーラにはこの公式があてはまらないように思うのです。


911でタルガやカブリオレを選んだとしても、基本的なシルエットは同じです。カイエンやマカンの最上級グレードを選んだとしても、判別できるのはエンブレムやホイール(これも、エントリーモデルでオプション装着すればいいので、カムフラージュ?もできます)くらいです。「人とは違うクルマに乗りたい。しかも、ポルシェで!」という、少しひねりの加わったこだわり派の人にとって、パナメーラ スポーツツーリスモはこれ以上ないベストセレクトなモデルかもしれません。さらに、通好みの希少車となる可能性を秘めているのですから・・・。

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