高温多湿の日本で避けて通れない「旧車の保管方法問題」について

2023年09月10日
旧車、クラシックカーの維持といえば、部品供給や整備の問題と並んで所有の障壁となるのが保管場所ではないでしょうか。

生憎、日本は気候変動が極端で湿度が高いため、クラシックカーに限らず美術品や楽器類などを保管するには不向きな環境だといわれています。

耐候性も考慮されている自動車はまだいいほうで、フライトごとに整備が必要になる航空機になると、日本の環境では博物館でも動態保存はほぼ不可能ではないかと感じます。

慈悲のない経年劣化を少しでも食い止める方法について書いてみたいと思います。

■王道はシャッター付き屋内ガレージ

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これができれば苦労しないといわれそうですが、やはり愛車の保管方法の王道といえばこれでしょう。

直射日光や風雨から愛車を守る方法としてこれに勝るものはないと思います。

保管はもちろん、メンテナンスやDIYレストアも夢ではありません。

但し、建屋のガレージを用意するにあたって気をつけなければいけないのが、どこまでもついて回るの湿気の問題です。

外気や雨をシャットダウンしたいがために、あまりに密閉性の高い構造にしてしまうと、もっとも避けたかったはずの湿度が上がってしまいます。

結露も発生しやすくなり、結局錆の原因になったり、本革内装にカビが発生するという事態に陥ります。

高温で蒸れた密室内は不快で中にいて我慢できるものではないというのは、人もクルマも同じことです。

換気口の設置等必ず換気を意識した構造にするのが鉄則です。

市場価格が億単位のスーパーカーやヴィンテージカーとなると、エアコン付きのガレージを用意するというのはそれなりの理由があるわけです。

エアコンとまではいかなくても、換気扇の設置でもかなり有効かと思われます。

キャブ調整や暖気でエンジンをアイドリングさせる際の酸欠事故を防ぐ効果も期待できます。

筆者の借りているガレージは鉄骨に波板を貼っただけの簡素なものですが、湿度や換気のことを考えるとこのくらいがちょうどいいのかもしれません。

ちなみに、屋内ガレージの類で侮れないのが、農村部の古民家に残っている、昔ながらの土蔵や納屋、家畜小屋等です。

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昔の人の知恵とは素晴らしいもので、茅葺屋根の木造の土壁の建屋というのは温度変化が小さく、湿度も一定に保たれ、古い自動車を長期保管するには適した環境と推察します。

最近はなかなかそういう話も少なくなりましたが、昔はよく納屋や土蔵を整理していたらオドメーターが5000kmも進んでいないような1960~1970年代の国産旧車が新車当時に近い状態のまま見つかったという話をよく聞いたものです。

そういうクルマの中には他に所有しているトラックやトラクターと一緒にまとめて税金を払っていたことで、長年車検切れの状態でも登録抹消されず、納車時のパンフレットや保護ビニールが残ったまま1桁ナンバーまで引き継げたというケースも少なくありませんでした。

ガレージ内で保管するにしても、動かす頻度が週末だけとか月に数回だけというのであれば、ガレージ内で簡易的なものでもいいので埃除けにカバーをかけておくのもいいでしょう。

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あるいは、外壁塗装時に近くに駐車しているクルマを塗装ミストから守る養生カバー(500~1000円くらい)でも十分です。

これであとはコンプレッサーでもあればエアダスターで埃を飛ばして、スプレー式の水なし洗車クリーナーで拭いておけば水洗いの必要もなくなります。

■侮れないカーカバー

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カーカバーを使うとボディに傷がつく、湿気や汚れがたまって意味がない、という意見も耳にします。

しかし、結論からいえば直射日光による紫外線や風雨、土埃等の直撃を防ぐ効果は確実にあります。

何もしないで露天駐車するよりは間違いなくボディへのダメージは防止できます。

ただし、必ず最低限、防水生地、あるいは撥水加工されて生地で透湿を確保。

さらに裏起毛でボディ接触面がソフトなものを選び、脱着は天気のいい日に限り、定期的なメンテナンスを怠らないというのが前提です。

筆者が初めて使った防水、裏地付きカバー。フェンダーミラー仕様は注文品(現在は廃版)

安価なカーカバーは安物買いの銭失い、高価なものほど良いというのが顕著に出る製品です。

前述の屋内ガレージ保管の埃除け用であれば、裏起毛なしのカバーでもいいと思います。

しかし、屋外で使うにはボディにこすれてしまいますし、透湿性のないカバーでは湿気がこもり錆の原因にもなります。

サイズにもよりますが、価格帯としてはある程度有名なメーカーの汎用品で20,000円前後から、車種ごとに専用サイズが用意されているオーダーメイド品では5万円~10万円を越えるものもあります。

毎日、日常的に使うクルマでは難しいですが、いわゆる旧車に位置づけられるクルマで、普段の実用目的ではなく、乗るのは週末程度、月に数回というのであればカバーはかなり有効です。

カバーを使用するときは必ず、ボディを一旦綺麗に洗いワックスをかけておきます。

あとはボディ側の面に接する裏起毛側に汚れを付着させないように注意しながらカバーをかけます。

何か月もかけっぱなしにするのではなく、晴れた日は週に1度カバーを外して虫干しし、スプレーワックスやボディクリーナーで埃を取るだけでOK。

これで何か月も水洗いしなくても済むようになります。

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カバーをかけて2週間、内3~4日ほど雨でもこの通り

どうしても雨の日に乗らなければならない、あるいはカバーを外して乗っているうちに雨に降られてしまったときは、天気が回復してから、雨水を拭きとってカバーをかぶせてください。

ただしカバーには寿命があり、長い人では4~5年は使えたというケースもあるようですが、概ね2~3年、条件や気候によっては数か月~1年で要交換となるケースもあります。

事実、日当たりや、購入時の気候変動等で大きく変化するようで、同時期に複数購入して同じ敷地内で使っていても顕著に差が出るそうです。

最近は裏起毛付きの撥水、透湿機能付きのカバーで1万円以下で購入できるものもあり、一度試したことがりますが、ものの一か月で破れて使い物になりませんでした。

汎用性が高く価格も手頃で耐久性もある手堅い製品としては、まずは2万円前後で購入できるCOVERITE製がお勧めです。

専用品が欲しいという方は、オーダーメイドで車種別、ラインナップにない車種や社外品エアロ付きなどは持ち込みで採寸に応じてくれるメーカーもあるので、そちらを検討してみるのもいいかもしれません。

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現在筆者が愛用しているCOVERITE製カバー。このロゴのカバーを一度は見たことがある人も多いのでは。まずは汎用品からという人にはお勧め

■究極の保管方法「日常使用」

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あるクラシックカー専門店の社長に「ロールスロイスやメルセデスの一番いい保管方法はどうすればいいのですか?」と尋ねたら「毎日、普通に乗ってください」と回答でした。

実際に技術工学的にも、機械は常時適度な負荷をかけ続けて運転すると一番長持ちするともいわれています。

本革内装は人が乗り降りしているほうがカビが生えにくくなります。

常に油脂類が循環し、機械部分が駆動していれば、偏摩耗も配管の詰りも発生せず、樹脂部品やゴム部品も柔軟性を保持することができます。

走行していれば、エンジンの熱や走行風で水気も飛び、錆の原因となる湿気を取り除くことができます。

何十年も日常使用している旧車、クラシックカーの中には年相応にヤレが進んでいるのに対して、致命的な錆や腐食には至っていないというのはよくある話です。

ある程度シンプルかつ堅牢で手堅い設計をしている車種で、なおかつ部品供給が安定している車種も存在します。

多少の不便や手間は覚悟のうえで、日常使用してしまうというのもひとつの方法です。

最後に、旧車の保管で小技をひとつ紹介します。保管場所に関係なく使える湿気対策で「除湿剤を車内に置く」という方法があります。

昔、試しにスバル360の車内に100円ショップで買った押し入れ用の除湿剤を車内においてカバーをかけて保管したところ、体感できるほど蒸れがなくなり、窓ガラスの曇りの発生も抑えられて驚いたことがあります。

但し置き型の場合、中身は塩化カルシウムのため、中身が漏れると最悪の事態になります。

取扱いには細心の注意を払う、あるいは定期的に天日干し等がいる吸湿剤を使うのもいいかもしれません。

苛酷な試練も承知で手に入れた旧車、少しでも良好で、長く現存させるための保存環境を用意するヒントになれば幸いです。

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