ポルシェ928は、なぜここにきて相場が上昇しているのか?

2020年09月01日
画像提供:カレントライフ (撮影/江上透)
画像提供:カレントライフ (撮影/江上透)
熱烈なファンにとっては「何をいまさら・・・」といった感があるかもしれません。空冷911に端を発する、世界的なポルシェの価格上昇。それが確実に928シリーズにも及びつつあるようです。

ポルシェ928の当時の車両本体価格の推移を紐解いてみた


●ポルシェ928シリーズの車両本体価格の推移
・928:14,500,000円(MT)、14,700,000円(AT) ※1980年当時
・928S:14,500,000円(AT) ※1984年当時
・928S4:13,900,000円 ※1991年当時
・928GT:14,500,000円 ※1991年当時
・928GTS:14,548,000円(MT)、13,948,000円(AT) ※1992年当時

意外なのは、時代の流れとともに変わりつつある(はずであろう)車両本体価格がほとんど変わっていない点です。昨今のポルシェは、モデルチェンジを重ねるたびに車両本体価格が上昇しつづけています。「1,000万円くらいで911が・・・」というイメージはまったく通用しません。ボクスター/ケイマンのオプション装備満載くらいで1,000万円くらいという状況です。現行の911(タイプ991)であれば、カレラにオプション満載で1,500万円くらい、カレラSにオプション満載すると、2,000万円に手が届きそうな状態です。さまざまな要因を抜きにして、車両本体価格のみについて言及するとしたら・・・。964時代であれば、ターボ3.6が充分射程圏内だったということになります。

それともうひとつ。928GTSは、AT車よりもMT車の方が高価な点です。新車時の価格は、MT車よりもAT車の方が割高になるのは周知の事実です。これがスポーツタイプのクルマだと、これにはもちろん理由があり、AT車ではオプション扱いのスポーツショック、そしてMT車のみ標準装備だったスポーツシートの設定などが挙げられます(AT車では選択不可)。このあたりは、当時のポルシェとしての意地なのか、インポーターの担当者がユーザー層を想定して決めたことなのか?想像を膨らませる楽しさもありそうです。


今も昔も、ポルシェ社にとって重要なマーケットは北米市場であることに変わりはありません。928シリーズの原点となる「928」は1977年に発表され、当初からAT車が用意されるなど、911と比べても高級なグランド・ツーリングカーとしての位置付けが明確だったことは間違いないありません。「かつてポルシェ首脳陣が、911に代わり、928の軸にしようとしていた」ことは、もはや周知の事実といえるのです。

●ポルシェ928シリーズの排気量の推移
・928:4470cc ※1977年当時
・928S:4957cc ※1985年当時
・928S4:4957cc ※1987年当時
・928GT:4957cc ※1991年当時
・928GTS:5397cc ※1992年当時

●ポルシェ928シリーズの最高出力の推移
・928:240ps/5250rpm ※1977年当時
・928S:292ps/5750rpm ※1985年当時
・928S4:320ps/6200rpm ※1987年当時
・928GT:330ps/6200rpm ※1991年当時
・928GTS:350ps/5700rpm ※1992年当時

928はその後、1980年に高性能版の928Sへ進化したことをきっかけに、S4やGT、GTSへと進化していきます。それに伴い、エンジンの排気量や最高出力もアップしてきます。しかし、ポルシェ928シリーズが、911に取って代わることを市場は受け容れようとしませんでした。結果として911は年次改良を続け、1989年に964へとモデルチェンジを果たし、現在に至るまで@ポルシェ社の「象徴」として君臨することになるのです。


「過去に生産されたポルシェの70%がいまも現役」というのがポルシェ社の主張。しかし、その大半が356や911であることは明確です。914や924、944、968、928などのモデルは少数派とみて間違いないでしょう。当時は手が届かず、憧れの存在だったクルマが、ようやく自分の稼ぎが追い付き、いざ手に入れよう・・・と動き出してはみたものの、かつて頻繁に見掛けたはずなのに、探してもどこにもない。程度の良い個体がない。ワンオーナー車は何度頼み込んでも譲ってもらえそうもない・・・。こういう事態が世界のあちこちで起こるようになると、必然的に相場があっていきます。数年前の空冷911の高騰も、まさにこの流れでしょう。

このお祭り騒ぎが一段落したと思ったら、911以外のモデルに余波が及びます。こうして、928シリーズの人気が再燃しつつあるのです。2016年10月にベルギーで開催されたボナムスオークションには、928クラブスポーツプロトタイプという、非常に珍しい仕様のクルマが出品され、3,000万円近い価格で落札されました。これを合図に、今後は928や944などをはじめとする、需要が高まっていくものと予想されます。


ポルシェ パナメーラの3ドアハッチバックモデルが928の再来・復活・・・という噂がたびたび聞かれます。パナメーラのワゴンモデルともいえる「スポーツツーリスモ」が正式に発売されたことを鑑みると、このモデルでのバリエーション展開も、期待が膨らみます。現在、世界に名だたる各自動車メーカーが発売している高級なクーペは、911が対抗馬としてすべて請け負っている状態。かつて、スティーブ・ジョブズがポルシェ928を所有していたことは有名なエピソードですが、ポルシェが放つ高級グランツーリスモとして、正統な後継モデルが発売されたら・・・。今度は市場が受け容れてくれるように思えてならないのです。

現行ロードスターが原点回帰を目指して発売され、なおかつ初代ロードスター(通称:ユーノスロードスター)の純正部品再生産のアナウンスがマツダから発せられたことに呼応するように、相対的に相場が上がっていきました。今後もこの動きは加速していくものと予想されます。

ポルシェ928の後継モデルが「ポルシェ928」の名のもとに復活を遂げるとしたら・・・。空冷911以上のブレイクを秘めているように思えてなりません。もしいま、歴代928のMT車がもし売り物として目の前に現れたら・・・。それは、名実ともにコレクターズアイテム。万難を排してでも手に入れておきたい、まさに運命の出逢いなのかもしれません。

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